店研創意50周年記念座談会【前編】
変革の軌跡――コロナ禍を乗り越えた組織改革と成長戦略
2025年1月、創業50年を迎えた株式会社店研創意。
大西グループの中で店舗の企画設計から施工、什器製作まで商業空間を一貫して手がけ、近年では、オフィス空間や住環境など新たな領域へも事業を拡大しています。
今回は、取締役副社長の増島史祥、執行役員で空間プロデュース事業部・事業部長の岩井直夫、同じく執行役員でストアエキスプレス事業部・事業部長の小林崇宏の3名が、50年の歩みと次の50年への展望について語り合いました。
前編では、コロナ禍という試練を乗り越えた組織変革の軌跡に迫ります。
プレイヤーから経営層へ――若き世代が担う50周年
———まず50周年を迎えた今の心境をお聞かせください。
増島:
50周年という節目を迎えることができ、まずは素直に嬉しく思っています。私は中途入社組で、歴史の半分くらいしか知らないのですが、それでも、その期間で大きな変化を経験し、特にこの数年は会社の転換期を肌で感じてきました。
小林:
私たちは若い頃から営業職のプレイヤーとして切磋琢磨してきたメンバーです。それが今、役員職をいただき、こうして50周年を迎えられるというのは、感慨深いものがありますね。
岩井:
現場を知っているからこそ見えてくる課題もありますし、逆に現場感覚を大切にした経営をしなくてはいけない、と肝に銘じています。
———大西グループの中での店研創意の位置づけについて教えてください。
増島:
大西グループは衣料品の総合卸売り(現:大西衣料㈱)が祖業で、長らくそちらが主力でした。しかし 2023年度には、売上高で店研創意が大西衣料を上回るなど、大西グループにおける中核事業として認識されるようになってきていると感じています。
創業以来最大の試練――2020年コロナ禍の衝撃
———これまでで最も印象に残っている出来事は何でしょうか?
増島:
直近のターニングポイントとしては、やはり2020年のコロナ禍です。おそらく創業以来最大のピンチだったと思います。赤字になることも覚悟しました。我々のお客様は小売店様が主力です。お店が開かない、人も来ない、先の見えない自粛と、本当に厳しい時期でした。
岩井:
空間プロデュース事業部の立場から見ましても、コロナ禍で商業施設の新設や改装が激減する中で、我々も新しい方向性を真剣に考えざるを得なくなりました。それまで主力だったアパレル系のクライアントだけではやっていけない、という現実に直面したんです。
増島:
今思えば、コロナ禍を契機に「この危機を乗り越えなくては」と一致団結して取り組めるようになり、今後のことも真剣に考え始めました。これほど真剣に、会社の将来について考えたのは、我々にとっては初めての経験でした。
———どのような危機感があったのでしょうか?
増島:
それまではお客様のニーズという追い風を受けて「イケイケどんどん」で前進してきた部分がありました。しかし、コロナ禍をきっかけとした経営環境の変化に対応するためにも、「ECの需要が増える中で、リアル店舗が増えない場合、我々はどうするのか」「新機軸を見いださなければ」といったことを、成長戦略も含めて議論し始めたんです。
小林:
組織の意識改革にもつながりました。組織としてボトムアップの流れができ、「みんなでやっていこう」という意識を強く持てるようになりました。
岩井:
コロナ禍では特に、お客様が何を求めているのか、どこにコストをかけたいのかが明確に見えてきました。そうした現場の声を経営に活かせるようになったのも、この時期の大きな変化だったと思います。
増島:
今につながる大きな転換期だったと思います。何かきっかけがないと、なかなか全社一丸となって目が覚めるようなことはないでしょう。コロナ禍のような災禍はもう二度とあってほしくないですが、痛みを伴いながらも大きな成長を得た機会だったのは間違いないでしょう。
———コロナ禍の2020年、「成長戦略プロジェクト」がスタートしています。
増島:
偶然、プロジェクト立ち上げとコロナ禍がかぶってしまったんです。実は2017年頃から少し業績に陰りが見えていたので、テコ入れのために始まったプロジェクトでした。今思うと、逆に改革のための時間が取れて、いい機会になったと思います。今後の事業の立て直しも含め、みんなで一緒に取り組むという意識を持てたのは大きかったです。
店研創意の競争優位性――独自のビジネスモデルが生む強み
———店研創意の強みはどこにあるとお考えですか?
増島:
一番大きいのは、店づくり において設計施工と物販の両方を揃えているということです。店研創意のビジネスモデルの根幹であり、今も変わっていない部分ですね。設計施工だけ、什器の物販だけという企業はたくさんありますが、両方扱う業態は珍しいです。
岩井:
設計施工会社は案件ごとの入札が多いですが、我々は設計施工だけでなく、什器や備品の調達、その後のメンテナンスまで一貫してご提案ができる、それが非常に評価していただいているポイントです。特に多店舗展開されるお客様には、統一感のある店づくりを継続的にサポートできるという安心感を提供できています。
増島:
什器に関しても、汎用性が高くさまざまな業種に使っていただける商品を、コストを抑え、しかも在庫を積んでいる点が特徴です。什器といった大型のものは、注文してすぐは来ないという認識が一般的ですが、自社在庫ですぐに出せるというのは、特に中規模の小売店様に対して非常にマッチしていると思います。
———販売チャネルも多様ですね。
増島:
販売チャネルが店舗、カタログ、EC、法人営業と幅広いのも強みです。ECは業界の中でも、比較的早い方だったと思います。むしろ、ECが先にあって、法人営業はその後で始まったのが実情です。特に、店舗什器のECは、業界では希少性がありました。それによって商圏も広がりましたし、全国のお客様を取り込めるチャネルができたのは大きかったです 。
———具体的にはどのような什器が強みなのでしょうか?
小林:
我々の特徴は、ゴンドラ什器と呼ばれる シンプルなものだけではなく、衣料品店で使うような意匠性の高い什器を揃えていることです。
衣料品店では、トレンドやデザイン性 、機能性が求められます。従来の什器メーカー が標準的に展開している製品を、衣料品店様が使うのは、なかなか難しいことでした。我々は衣料品から雑貨、食品まで幅広い物販で使える汎用的な什器を作って標準化した取り組みにおいて、先駆者だったと思います 。
市場変化への適応――「でいい」から「がいい」への転換
———市場環境はどう変化してきたのでしょうか?
増島:
一番成長した時期は、ショッピングモールが次々と建設されていた2000年代前半から2010年頃です。自身も営業職だった当時、追い風にあることを強く感じていました。そこから徐々にオーバーストア気味になって、出店も段階的に減少。お客様の業績も芳しくなくなると、出店される際にもコストがかけられなくなるからです。
小林:
その当時の店研創意は、「安いから使っていただける」「世界観を壊さないぐらいシンプルだから使っていただける」といった位置づけだったように思います。そこから「選ばれる」ようになるためにどうしたらいいか、研究開発を重ねてきたことが、今の代表的な商品につながっています。
———商品の洗練性が高まったということですね。
増島:
コロナ禍でお客様も苦労されていますから、コストがかけられなくなっています。今までだったら一から特注で作っていた什器を更新する際には、店研創意の標準化した商品も評価いただけるようになりました。20年前の店研創意の商材だったら、おそらくマッチしなかったでしょう。それだけ、我々の商品のクオリティが上がってきているのです。
小林:
特に若いメンバーは、「安いから買っていただける」「店研創意でいい」と“妥協”して購入いただくのではなく、「店研創意がいい」と選ばれる存在になりたい、という思いを強く持っています。自信を持って価値を語れる商品・サービスを作っていこうという意識が高まっています。
———物価が高騰している中、お求めやすい価格を維持するのは大変ではないでしょうか?
増島:
この2〜3年は、企業努力で吸収しきれない分は、少し値上げさせていただいていますが、最低限に抑えています。価格競争力という点では、全体的に十分に競争力があるラインを保っているつもりです。価格見直しがある中でも、選ばれる商品ができているという面もあるのでは、と自負しています。
――前編では、コロナ禍という試練を乗り越えた店研創意の変革の軌跡を追いました。後編では、各事業部の具体的な取り組みと次の50年への展望に迫ります。