「着るサプ™」が拓く、新しいケアの地平 ―困りごとへの「気づき」から生まれる価値創造―

㈱ケアファッションは「おしりスルッとパンツ」が好評を博している高齢者向けアパレルメーカー。
創業94年の大西グループから2015年に独立し、独自の道を歩んできました。
今回は血行促進効果が期待できる新シリーズ「着るサプ™」の開発秘話を、
執行役員の樋川晴彦と商品部チームマネージャーの辻村公明に聞きました。

機能性と普通の服らしさの両立で外出を後押し

———様々な状態の方がいる高齢者層ですが、どんな方も楽しく着られる服を作っているとか。

樋川:
ケアファッション創業当初は介護認定を受けている方向けの衣料品からスタートしました。しかし実際は、高齢者全体の9割以上がアクティブシニア。そこで、2018年に私が着任した際、ターゲットをすべての高齢者に変更しました。ただし、ケアファッションという社名に込めた「一般に売られているシニア向け衣料とは一線を画したい」という想いは変わっていません。着脱のしやすさや、体型変化への対応など、確かな機能性を追求しながら、見た目は普通の服であること、そこが私たちのこだわりですね。

辻村:
機能だけを追求すると、どうしても見た目が特殊な印象になってしまうんです。しかし、外出を促して社会参加を増やすためには、普通の服に見えることがとても大切。その両立を目指しています。


———製品開発のヒントは、どこから得られるのでしょうか。

辻村:
コロナ禍以前は、年間200回もの「移動バザール」を実施し、介護施設を訪問して、利用者さんや介護スタッフの方と直接お話し、お困りごとをお聞きする機会を大切にしてきました。また、高齢者がひとりで着やすい工夫をこらした「おしりスルッとパンツ」を共同開発した西宮協立リハビリテーション病院の医師・療法士の実体験やご意見に加え、医師・療法士を介して伺った患者さんのお声や、さらに、介護施設のスタッフからアドバイスをいただいたりもしました。そういった現場の声を大切にしながら、MR(市場調査)を行い商品開発を進めています。 
こうした取り組みから生まれた「おしりスルッとパンツ」は、7年間で28万本を皆さんにお届けできました。私たちが目指すのは、単なる衣服の提供ではなく、実際の声を聞いて、困りごとを一つひとつ解決し、皆さんに元気に楽しく過ごしていただくこと。そのために力を尽くすのが私たちの使命だと思っています。




着るサプ™誕生秘話。血行促進という新しい選択

——— 「着るサプ™」シリーズ開発の原点を教えてください。

辻村:
「着脱のしやすさや体型変化に対応しつつ見た目は普通の服」という商品コンセプトは、ケアファッションの独自性の核となる部分ですが、それに加えて高齢者の最大の関心事である「健康」にアプローチできないかと考えていました。

高齢者の方は、体温調節が難しくなる傾向にあります。しかし、そこにアプローチする商品は、意外と少ない。㈱テイコク製薬社さまから、「IFMC.(イフミック)は温泉療法に着眼した研究から生まれた技術で、血管を拡張させる作用がある」とご説明を受けた時、「これだ!」と直感しました。

高齢者向けの血行促進系の衣料というと、遠赤外線を使ったものが主流でした。でも、体の熱を輻射して遠赤外線作用を増幅させる仕組みと違って、IFMC.は血管に直接働きかける。そこに可能性を感じましたね。


——— 商品化の過程で工夫したことはありますか?

辻村:
IFMC.の説明を受けて数値データ等も確認し、付加価値としては申し分ありませんでしたが、IFMC.加工を追加することにより、どうしても従来の価格帯より上がります。当社のターゲット層に、本当に相応の効果を実感していただけるのかが不安でした。
そこで、これまでに培ってきたリレーションを活かして、介護施設に着用評価の協力をお願いしました。普段から利用者さんの肌に触れている介護スタッフの方に「着るサプ™を着用した利用者さんは、いつもの冷えがなくなっている」といった嬉しいお言葉をいただけたんです。
利用者さんから、「足先の血色が良くなった」、「肩の痛みが軽減された」というお声もいただきました。特に冷えについては着用された方全員に改善が見られ、「やはり喜んでもらえる商品なのだ」と、自信になりましたね。

樋川:
商品展示会では、血流の変化が顕微鏡で見える装置を用意しました。着用前と後で、血流の速さや量が目に見えて変わる。ビジュアルでの証明に、来場者もぐっと興味をもってくださいました。「おしりスルッとパンツ」、「大きめボタンパジャマ」、「前開き肌着(3分袖ホックシャツなど)」は、当社の主力商品。すでに機能面での評価をいただいている商品にIFMC.という新しい価値をプラスすることで、着脱のしやすさだけでなく健康へのサポートへアプローチします。まさにケアファッションらしい製品開発の形ですね。




可能性は、まだ見ぬ困りごとの先に

———「着るサプ™」シリーズの今後の展開について教えてください。

辻村:
この春からは靴下をラインナップに加える予定です。まずはアイテム数を増やしていきたいですね。さらに、麻痺のある方でも自分で着られるパジャマなど、よりニッチな困りごとに応えられる商品開発も進めています。

例えば片手しか使えない方でも自分でトイレに行けるよう、センサーで自動開閉するズボンなども構想しています。まだアイデア段階ですが、テクノロジーを活用した新しいソリューションにも挑戦していきたいですね。

———そうした専門的なニーズに特化していく戦略について詳しく聞かせてください。

樋川:
例えば日本全国で1万人の方が困っている問題があったとします。その1万人の困りごとをズバッと解決できる商品なら、その1万人の方々は必ず買ってくださる。より専門的な、より深い困りごとに向き合っていくことで、本当の意味での価値を提供できると考えています。

ですから、私たちは現場にある困りごとへの「気づき」に敏感であろうとしています。困りごとを解決する方法は、必ずしも従来の延長線上にあるわけではないんです。時には発想を180度転換することで、新しい解決策が見えてくることもある。そんな気づきの積み重ねが、私たちの財産になっています。

———最後に、ケアファッションが目指す未来像について教えてください。

樋川: 
私たちが目指しているのは「高齢者向け」という枠を超えること。これまで高齢者の方々と向き合う中で培ってきた機能やノウハウは、実は事故や疾患で同じような不自由を感じている方の困りごとの解決にも使えるはず。ケアファッションという社名に込めた「ケア」という言葉は、特定の年齢層に限定されるものではありません。困りごとに寄り添い、解決していく。その積み重ねの先に、私たちの描く未来があるのだと思います。

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